インタビュー

富士通アクセラレーターが、今、アジアのスタートアップに注目するワケ

AEA2021の特別賞の一つである「Fujitsu Accelerator Award 」を提供する富士通は、「富士通アクセラレータープログラム」(以下、FAP)を通して、スタートアップとの共創に積極的に取り組まれています。FAPではこれまでに100社以上のスタートアップと共創事業を創出。2020年度のFAPのAsia Programでは43ヶ国200社のスタートアップの応募から5社を採択、そのうち4社がアジアのスタートアップでした。

なぜ今、富士通アクセラレーターはアジアのスタートアップに注目するのか。AEA2021に参加することで何を期待しているのか、今回は富士通株式会社Strategic Growth & Investment室のディレクター浮田氏と彭(ホウ)氏にお話を伺いました。

技術の進化が早いからこそ、しがらみのないスタートアップと組む

Q:アジアのスタートアップに注目しているのは何故ですか?

富士通 彭:今、IT技術の進化がとても速く、富士通のクライアントの要望もすごく速くなっています。富士通1社では対応しきれないということで他社との連携を進めてきましたが、新しい技術の活用において既存のビジネスとのしがらみがなく、ある問題を集中して解決することのできるスタートアップは魅力的だと感じています。中でも、アジアのスタートアップには注目しています。成長著しいアジアでは新しい技術が求められており、政府もスタートアップの支援に力を入れています。IMD世界デジタル競争力ランキング ではアジア特に東アジア地域は2年前から地域別ですでに世界のトップになっています。シリコンバレーは今でも結構強いですが、アジアもどんどん追いついてきて、さらに追い越そうとしていますね。

2020年度のFAPのAsia Programでは、全世界から200社のスタートアップから応募がありました。アジアと欧米がそれぞれ40%、イスラエルなど中東が20%です。5社採択したのですが、そのうちの4社はアジア、もう1社がイスラエルです。

専門家推薦のフィルターを通したアジアのスタートアップのピッチは貴重

専門家推薦は協業を進めるうえで、大きな安心材料

Q:AEAへ参加を決めた理由を教えてください。

富士通 浮田:いくつかの側面がありますが、一つは、なかなかアジアのスタートアップのピッチを聞く機会が少ないからです。富士通はIT寄りの会社ですので、そっちに目がいってしまいますが、AEAに参加するスタートアップを見ると、ITだけではなく様々な異なるソリューションを持ったスタートアップがいるので、それも理由の一つです。今のデジタル化の中では、自分たちの発想から離れたスタートアップを見ることも重要だと思っています。日本とその他のアジアの国々ではそれぞれ課題が違うと思いますが、アジアならではの課題は、実は日本にも共通する部分も出てくるかもしれませんので、そういったところを見たい、見つけたい、ということも狙いとしてあります。

また、AEAは専門家の方々の推薦があり、ある程度フィルターを通したスタートアップが集まっていて、それはすごく重要です。われわれはスタートアップを育成するというよりも、むしろ一緒に事業を作るという立ち位置なので、実際に協業を検討するためには、ある程度プロダクトがないと協業の検討が出来ません。そのため、専門家から見てここは間違いないというお墨付きがあり、製品をローンチしているというステージのスタートアップであれば、具体的な協業を検討できるだろうと考えています。

彭:スタートアップと協業するにあたっては、資金ショートでスタートアップが倒産するかもしれないなど信用性の面で様々な心配があるのですが、AEAのように著名な人、有名な組織の推薦によって出場するスタートアップは、協業を検討する上でも安心感があります。

協業のポイントは、社内のニーズとスタートアップの接点を見つけること

Q:スタートアップとの共創事業はどのように進めているのでしょうか?

浮田:良さそうなスタートアップを見つけても、その受け手の需要がいないというのはスタートアップとの協業を考える中でよくある話だと思います。だからこそ社内の課題に目を向けるのも大切です。社内のどこの部門がどんな方向性、戦略を持っているかを把握するというのも重要なポイントで、その点はだいぶ力を入れて取り組んでいます。

ただしスタートアップとの共創事業はリスクも高く、すぐに成果がでない中で、既存のビジネスとは違う立て付けでやらなければいけません。事業を伸ばすには、出資なども含めてend to endでしっかり設計していく必要を感じています。当社もまだ全然できていませんが、日本企業だけでなく、グローバルで見ても多くの企業が苦労をしていると思います。

そのため、一つの取り組みとしてプログラム形式みたいな取り組みをしたり試行錯誤しています。それがまだ正解かどうか分からないですけども、いろんな打ち手でスタートアップと協業し、新しいビジネスを作っていこうとしているところです。いくつかの取り組みを進めていますが、例えば、あるマシンビジョン+AIによる高精度な製品の不良品検出ソリューションを提供する台湾のスタートアップとの協業は、すでにある顧客のPCB(Printed Circuit Board)製造ラインに導入済みです。

Q:スタートアップとの協業を検討されている企業の皆様へメッセージをお願いします。

浮田:富士通ではプログラム等も通じて200件ほどスタートアップとの協業を進めています。その結果スタートアップの見方、座組などはみえてきました。一方で、協業を実現するには受け手、すなわち社内の事業部門の方向性や戦略を把握するなど、自社の課題に対する理解を深めることも重要なポイントだと思っています。

彭:日本国内だけじゃなく、アジアやほかの地域もそうなのですが、富士通社員はスタートアップと協業することによって、スタートアップのマインドセットが育っています。将来的には、チャレンジ精神を持って社内で起業するなど、新しい事業を自ら作っていく活動にもつながっていくと思います。